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ハッピーリッチコラム バックナンバー

『住宅の省エネ義務化方針は撤回されたのか?』
    ~省エネ基準適合義務化見送り決定に欠けているのは国民への視線~
2018/12/25

私的年金をつくろう 『ハッピーリッチ・アカデミー』第308号

こんにちは!
明るく前向きに自分の財産を築いていこうと頑張るみなさんに、ハッピーな人生を送るための情報を提供する「ハッピーリッチ・アカデミー」管理人の川瀬です。

今回は、住宅性能についてです。
日本は住宅性能の基準を上げるチャンスを自ら棒に振ってしまったようです・・・。

 
■省エネ義務化、住宅への適用見送りという残念な決定

みなさんは日本の住宅の断熱性能や省エネルギー性能が先進国でも最低に近いレベルにあるということをご存じですか?

クルマや家電製品などに代表されるように、「日本製」は性能の高さの代名詞です。しかし住宅だけは例外なのです。中でも特に断熱性能が低いために、夏の暑さや冬の寒さなど、外気温の変化の影響をとても受けやすい。だから、冷暖房器具をフルに使って生活することが当たり前になっています。その冷暖房エネルギーもだだ漏れ状態なのに・・・。

そんな日本の住宅の現状を改善しようという動きがここ数年にわたって住宅業界で起きていたのですが、そんなムードに冷や水を浴びせるような残念なニュースが年末に入ってきました。
↓↓↓

<省エネ基準 中規模建物も 国交省、20年以降に適合義務付け>
(2018年12月24日付 日本経済新聞)
『国土交通省はオフィスビルやホテル、商業施設など住宅を除く新築の中規模建物(延べ床面積300平方メートル以上2千平方メートル未満)について、省エネ基準への適合を義務付ける方針だ。実際に義務付けるのは2020年以降となる見通しだ。住宅や小規模建物(同300平方メートル未満)は現状の基準への適合率が低いことに加え、業界の反対が根強いことから見送る。』

この記事のタイトルと「2020年以降、新築建物に省エネルギー基準の適合を義務付ける方針」という部分だけを業界動向をあまりご存じない方が見ると、「建物の省エネが義務化されるのか。徐々に省エネ化に向かって進んでいくのだから良いニュースだな。」という印象を持たれるかもしれません。しかし、そうではありません。このニュースの本質は記事引用部分の最後の『住宅は現状の基準への適合率が低いことに加え、業界の反対が根強いことから見送る。』というところです。

これが残念極まりないのです。

 
■住宅の省エネ義務化はこの10年間規定路線だった

実は、「2020年に新築建物への省エネルギー基準適合は義務化される」ということはすでに住宅建築業界では「規定路線」でした。

遡ること今から12年前、平成18年に「住生活基本法」に基づいて日本の今後の住宅のあり方を示した「住生活基本計画」が閣議決定されます。その中の「ストック重視の施策展開」という項目にはこうあります。
『環境問題や資源・エネルギー問題がますます深刻化する中で、これまでの「住宅を作っては壊す」社会から、「いいものを作って、きちんと手入れして、長く大切に使う」社会へと移行することが重要である。このような観点から、既存住宅ストック及び新規に供給される住宅ストックの質を高めるとともに、適切に維持管理されたストックが市場において循環利用される環境を整備することを重視した施策を展開する。』(住生活基本計画 第2の2より引用)

国土交通省によると、日本の住宅ストック約6,063万戸のうち、「バリアフリー・省エネルギー」のいずれも満たす住宅を「将来世代に継承できる良質な住宅」と定義づけしていますが、その数はたったの200万戸。それ以外の住宅ストックは基本的に建て替えるか性能向上リフォームによって更新していく対象とされました。

そしてその施策として、確か平成23年に、「2020年にはすべての新築建築物は省エネ基準適合を義務化する」と政府から発表されました。

それ以降、住宅・建設業界は建築物の省エネ化を漸次進めてきたのです。

当時、省エネ基準の義務化の対象を「新築」に限定したのは、「中古住宅のリフォームにまで適用範囲を広げるとさすがに影響が大きい、だからまずは新築から。」というような議論があったとも仄聞しています。
そこには、「国民の健康と経済を守る」という大義の下、数年かけても日本の住宅ストックを省エネルギーで良質なストックに替えていくのだ、という官民挙げてのコンセンサスが確かにありました。

それが、2020年まで残り1年くらいになったこの段階での「住宅は見送り」とされました。
「見送り」としながら「ではいつまで見送りなのか」という期限は示していません。これは、国交省はこれまでの省エネ化路線を変更した、つまり住宅への省エネ基準適合義務化を撤回したと受け止められても仕方がありません。

そのことに、日本の住宅性能の向上を願い、その普及に努めてきた業界関係者(私もその端くれだと自認していますが)は大いに失望しているのです。

 
■義務化しようとしている水準は決して高くない

そもそも、政府が義務化しようとしている省エネ基準はドイツなど環境先進国といえる国々で義務化されているレベルに比べるとずっと緩いものです。
住宅の省エネルギーをもたらす断熱性能の指標として、Q値(熱損失係数)とかUa値(外皮平均熱貫流率)というものがあります。一定の条件の下で、熱エネルギーがどれくらい損失するかの割合を示す指標で、値が小さければ小さいほど熱損失が小さい住宅、つまり断熱性能が高い住宅ということであり、値が大きければ断熱性能が低い住宅ということです。
地域にもよりますが、日本が義務化しようとしているレベルはQ値でいうと2.7、Ua値で0.87程度です。しかし、例えば環境先進国であるドイツで義務化されているQ値の最低基準は1.0程度です。
断熱性能の最低レベルが日本よりもはるかに高いのです。つまり、日本で「省エネ住宅」と言われているQ値2.7程度の住宅はドイツでは法律違反で建ててはいけない、性能の低い住宅なのです。
日本は、この世界的にみると全然高くも厳しくもない基準の義務化すら出来ていません。義務化されていないから、この基準の適合率は今もまだ新築の5~6割程度です。

「新築で」、ですよ。「新しいものは性能がいい」と考えるのが普通だと思いますが、日本では新築住宅の半分近くは世界基準では建ててはいけない性能レベルのものです。日本の住宅ストックでQ値2.7以下レベルの住宅は日本にはまだ全体の5%程度しかないのです。政府の方針として、残り95%の残念な断熱性能の住宅ストックを刷新していくのではなかったのでしょうか・・・。

住宅の省エネ化は、グローバルにみると省CO2に向けた国際的な潮流であり、環境保護のためでもあります。国としても省エネルギー化は国家的課題であるとともに、住宅ストックの刷新は国民の住環境向上に資するものであり、新築やリフォームを促進するので経済対策にもなります。高断熱化によって温熱環境の整った住宅はそこに住む人をヒートショックの危険から遠ざけるなど生命と健康を守ってくれます。家計にとっても電気・ガス・灯油代の節約になります。何より快適で健康的な暮らしをもたらしてくれます。

今回の住宅の見送りは日本が環境先進国に近づく第一歩になるものと思っていましたが、残念ながら自らそのチャンスを棒に振ってしまいました。

記事には見送りの理由としてこうあります。
『住宅や小規模建物は適合割合が5~6割にとどまっている。省エネ基準に合わせるための投資はかさむため、法令で義務化すれば住宅投資へのマイナスの影響をおよぼしかねないと判断した。』(日経新聞より引用)

住宅の適合率が5~6割しかないから義務化するべきなのではないでしょうか。
いまだに「省エネ基準を満たした家は高くなる」と言っている建築業者はこの10年近く何をやってきたのでしょうか。性能の高い家を作れない、作りたくないという建築業者を存続させる政策に、国としてどんな意味があるのでしょうか。

 
■損を被るのはいつも国民

残念なのは、今回の決定に性能の低い住宅に暮らす国民に対する視線が欠けていることです。
これでこの先も多くの日本国民は、冷暖房エネルギーがだだ漏れで快適な温熱環境とは無縁な住宅に、高い光熱費を払い続けながら住み続けることになりました。そのことに気付くこともないままに。

政府は、一般消費者が省エネについて認識が乏しいことも課題として挙げています。これも国民を馬鹿した話です。私は仕事で住宅の性能セミナーなどをずっとやっていますが、ほとんどの人は正しい情報を得れば正しい選択をします。
また、省エネ住宅は価格が上がるとしていますが、すでに高断熱を標準にして取り組んでいる住宅会社はかなりあり、そういう事業者はそれほどのコストアップをすることなしに高断熱住宅を供給することが出来ています。国の基準(Q値2.7、Ua値0.87)よりもはるかに性能の良い高断熱住宅を供給しながら、むしろ受注を伸ばしている会社も数多くあります。それは高断熱住宅が消費者の支持を集めるものであり、住宅会社の成長戦略にもなり得るということです。

そもそも、省エネ住宅が高くなる理由のひとつは高断熱部材が広く普及していないからです。義務化して高断熱仕様が当たり前になり、流通量が増えれば当たり前に今よりも価格は下がります。欧米ではそうなっていますから。

高断熱で省エネルギーな住環境を提供することは、国と国民の利益になると考え、真面目に性能の良い家づくりに取り組んでいる住宅会社は年々増えてきていました。
今回の決定は本当に残念ではあります。しかし、法律がどうであれ、私たちは住消費者の理解を拡げる努力を続けていきます。そして、断熱性能の良い住宅を供給する事業者がこれからも増え続けていくことを祈るのみです。

今回は以上です。
次回もお楽しみに。

 
【編集後記】 「今年もありがとうございました」
それでも政府は「住宅・建築物の省エネ性能の向上を図るのは喫緊の課題」としています。基準適合しない家であっても建築が可能な状態にしておいて、ゼロエネルギーを推奨して補助金を出したりするのはどうかと思いますが、どうか高断熱化への道筋は閉ざさないようにしていただきたいものです。
さて、今年は今号が最後です。今年も一年お世話になりました。よいお年をお迎えください。